毒になる父親達

日曜朝に、テレビで仮面ライダーを観るのが習慣になって久しい。2016年から2017年は「エグゼイド」であった。

2018年は「ジオウ」が放送中で、この作品は歴代ライダーが出てくるのが目玉の一つである。エグゼイドは早々に登場している。
これを機に三浦大知の「EXCITE」を再び聴いたら、テレビの後の話が急に気になりだした。
メインはテレビ本編だが、他にも映画やスピンオフドラマなどがある。そこで、現時点で最も未来の時間軸である小説版を読むことにした。

物語の時系列は、テレビ本編の後にいくつかのエピソードを挟みながら小説版へ至る。自分が視聴したのは本編のみなので、間を随分すっ飛ばしている。
いきなり小説版は無謀かと思ったが、物語を追う分には支障なかった。映画やスピンオフを初見する楽しみは減ってしまったけれども。
登場するのはテレビ本編でお馴染みの人物達。本編以外に登場した人物も時折描写されるが、最低限の紹介は本文にあるので違和感はなかった。とはいえ、前もって知っていたらより楽しかっただろうなあ。

以下ネタバレあり。

「エグゼイド」小説版で描かれた父親達

小説で実際に登場したのは主人公の父親のみ。あとの二人は家族が人物像に触れている。
例えば、主人公の仲間の父親・鏡灰馬(かがみ はいま)については、息子の飛彩(ひいろ)がこのように語っている。

「親父はかつて神の手を持つ外科医と称され、(中略)しかし家ではそんな素振りを一切見せず、冗談ばかり口にして家庭に明るい笑いをもたらそうとしていたようだ。」

小説 仮面ライダーエグゼイド 〜マイティノベルX〜 より

※ただし息子にはウケなかった模様。

鏡家は、うおっまぶしっ!となるくらいに輝かしい一族であるようだ。代々才能と経済的に恵まれ、余分な圧をかけられることなく、父母に憧れ順当に将来を歩んでいった。飛彩は恋人と悲劇的な別れを迎えるが、父親や仲間の支えを得て希望ある未来へ向かっている。正統派ヒーローなのである。

毒になった父親達

灰馬は経歴もさることながら、父親としても朗らかな人物であることはテレビ本編でも明白だった。一方、息子達の陰を生み出すことになったのが、主人公の父と、敵の父である。

主人公の敵の父こと檀正宗(だん まさむね)は、自らの欲望のために子どもを利用する親だった。一人息子の黎斗(くろと)の才能を褒め讃えるが、全ては自分に役立つからであった。息子の傲慢さは助長され、やがて父親を利用するようになる。歪む条件は揃っていたのである。
この父にしてこの子あり、という親子でイカれた敵役っぷりを発揮していた。もっとも役者の怪演も影響していると思う。
正宗の妻は、夫と息子の才能を認めながらも危うさを感じ行く末を案じるのだが、病に倒れてこの世を去ってしまう。亡くなった母親の想いは、とある人物を通して垣間見ることになる。
家族を野望に利用する父親は平成仮面ライダー内でも既出であり、分かりやすい毒親代表である。

主人公・宝生永夢(ほうじょう えむ)の父、清長(きよなが)は小説で初めて登場する。檀親子ほど分かりやすい狂い方こそないが、現実で身近な毒になる親かもしれない。
清長は息子が生まれて間もなく妻を亡くし、父子二人で多忙な生活を送ることになる。清長が仕事に明け暮れる中、幼い永夢は転校続きで、家でも学校でも温かく迎える人が誰もいない。生活は緩やかに崩れていくのであった。
息子への心配りはかろうじてあったとしても、永夢本人にしてみれば微塵も感じられないものになってしまったし、清長の仕事熱心さは自らの業務における失敗を隠すためのものに変貌していった。父の心に息子は存在しない。

小学生の永夢は交通事故に遭い、病院へ搬送される。その時出会った医師がきっかけで、医療の道を目指したことは本編で描かれていた。
この事故に何故出くわしてしまったかの答えが今回明かされる。自ら死のうとしたからである。そこにドラマティックな理由はなかった。

「特別な何かが起きたわけじゃないんだ」

小説 仮面ライダーエグゼイド 〜マイティノベルX〜 より

全てはこの永夢の一言に尽きる。日々の小さな積み重ねは、子どもの心にぽっかりと穴を開けるに充分すぎた。高校生になる頃には、親に対して不安や怒りを通り越し、軽やかな諦めだけを抱く空虚な人間の完成である。
ところが父親は、息子が事故に遭おうが身体に異変が起きようが、部外者の心境ままであった。
入院中の永夢を描写した章が読んでいて一番心苦しかった。退院したくない8歳の男の子の人生と、悪気も裏表もない飛彩の人生があまりに対照的なのだ。

親の毒を中和したのは

タイプの異なる「毒になった父親」を紹介してきたが、一方で毒を受けた子どもに手を差し伸べた人物が登場する。
交通事故に遭った永夢を手術した医師である。
この人は登場する度に言動の胡散臭さが目立っていたのだけれど、本当に永夢の恩人であることが初めて判明した。恩人、なんて大げさな表現だなと思っていたが、身体の傷はもちろん、実の親が放置していた心のケアもしていたのだった。

毒をもって毒を制す

そして仲間達が永夢を受け入れたのだった-と書くとありがちだが、仲間以外に毒を中和したのは、永夢と同じく毒になる親の元で育った黎斗である。
二人の受けた毒は種類が異なるし、黎斗の場合は親に加えて自らの才能故に溺れた面がある。しかし、足りないものを埋め合わす要素を、永夢と黎斗は互いに持っていた。
「エグゼイド」はゲームと医療がテーマだ。永夢と黎斗の関係は、今までもこれからも、ゲーマー対ゲームクリエイター、あるいは医師対患者だ。
二人の毒は、寛解はしても完治しないのではないだろうか。両者は敵と思いきや、皮肉にも最高の理解者であり、命ある限り永遠に向き合い続けることはまんざら嫌でもなさそう。黎斗の肉体は何度か死亡しているが、永夢が生きている間は何らかの形でいつまでも蘇る勢いである。

と重くなっていたのに、黎斗が永夢を呼ぶ際にいちいち「ゥ!」がついていてうるさいよ!、曇った気持ちが吹き飛んだ。
エグゼイドの変身ベルト音は文章化してもやはり賑やかで長かった。